まるこ & あおい のホントのトコロ

さらっと読めて、うんうんあるある~なエッセイ書いてます。

料理を取り分けてくれる女はオトコに媚びているわけではなかった。

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「ほんま、いらんことするよな」

OLをしていた20代の頃、ずっと思っていたことがある。

 

社内の懇親会とか、友達同士の飲み会とかに行くと、

出てきた料理を、みんなに取り分けてくれる後輩がいた。

手際よく人数分に小皿に取り分け、

「はい、どうぞ」といって手渡してくれる。

 

 

「あ、ありがとう」

小皿を受け取りながら、最初はちょっと戸惑った。

というのも、初めから一人分になっている料理は別として、

大皿の料理は、自分の食べたいものを食べたいだけとって食べる、

というのが私の常識だったから。

 

そんなことしてたら、自分が食べる暇ないんちゃうの?

と思った私は、

「いいよいいよ、自分でやるから」と伝えたのだけれど、

 

彼女は最初から最後まで、

まるでそれが自分のお役目であるかのように、

ニコニコしながらその作業をやり続けるのだった。

 

 

 

最初は、親切な子なんだな、と好意の目で見ていた。

 ところが回を重ねるごとに、だんだんと腹が立ってきたのである。

 

というのも、

もともとそういう習慣がなかった私にしてみれば、

子どもじゃないんだし、

別に取り分けてもらわなくても自分で取れるし、

っていう思いがあった。

 

しかも困ったことに、

分けられたものは基本食べなければならない。

いいオトナが残すなんてことはできないだろう。

がしかし、中には嫌いなものもあるし、

反対にもう少し食べたかったのに、というものもある。

 

それでもせっかく分けてもらったのだから食べなきゃって思う。

これは日本人のサガなのか? それとも私だけなのか?

どちらにしても、自分で金払って来ているのに、

なんで気を使って無理に食べなあかんわけ?

自分の食べたいものを食べたいだけ食べたいわ!!

とだんだん腹立たしくなってくるのである。

 

で、遠まわしに「自分で取るから大丈夫」って伝えたりすると、

その場では了解してストップしてくれるのだけれど、

遠慮していると思われたのか、

また次の時には同じように取り分け行為が繰り返されるわけで。

 

そうなると今度は、

ここまで言うてるのに、それでもやる? 

 

ってことは、

もしかして、オトコに気に入られたいんちゃうん?

気がきくええ子やって思われたいんちゃうの?

そんなことに利用されたらかなわんわ。

 

こうなったらもう、取り分け行為は嫌悪感でしかない。

 

だったら彼女が取り分ける前に、自分の分、好きなだけとったら?

って思われるかもしれないけれど、そこは小心者の私のこと、

先輩や上司を差し置いて一番最初に取るなんて、

そんな厚かましいことはできない。

 

彼女は同じ部署の後輩ということもあって、

忘年会や新年会など一緒に参加する機会も多かった。

その度に、まるで与えられたエサを食べるペットのように、

小皿に盛られた料理を残さず食べるということを、

ちょっとイラっとしながら繰り返していたのであった。

 

 

そんな彼女との付き合いも、

私が結婚して会社をやめてから、ほとんど会うことがなくなり、

正直ホッとしていた。

 

それでも時々、別の飲み会で、別の取り分け係に遭遇したとき、

彼女のことを思い出すと同時に、

ここにもオトコに媚びたいヤツがいる、

と思うと嫌悪感でいっぱいになるのだった。

 

 

 

ところが、それから随分と時が経ち、

取り分け係の存在すら忘れていたとある飲み会の席で、

過去最強の取り分け係に出会ってしまった。

 

彼女は、でてきた料理を瞬時に全員分取り分けるのはもちろんのこと、

コップや皿、器に至るまで、

空になった、と思った瞬間に自分の方にかき集め、

同じ大きさのものをそろえて重ね、

残った料理はひとつの皿に集め、

お店のスタッフに渡す、という一連の作業を、

 誰よりも大声で喋りながら、

自分もしっかりと食べながらこなしているのを見たとき、

 

 

OL時代の取り分け係の彼女とは

比較にならないぐらいの迫力に驚きを隠せなかったのである。

 

彼女は当時50歳ぐらい。チャキチャキの江戸っ子。

見た目も中身も豪快で、男勝り。

申し訳ないけれど、可愛い女子からはかけ離れている。

男に媚びたいというわけでもなさそうである。

 

私はおそるおそる、彼女に聞いてみた。

 

「さっきからものすごい勢いで、

取り分けたり片付けたりなさってますけど、

それっていつもされているんですか?」

 

そうすると彼女は、少し困った顔をしてこういった。

「私さ、ダメなんだよ。

目の前にあると、どうしてもやってしまいたくなるんだよ」

 

「ええ? やりたいんですか?」と私が聞くと、

 

「そう、やりたいんだよ。変か?」彼女は男っぽい口調で答えた。

 

「いえ、別に」

 

とは言ったものの、私にしてみれば青天の霹靂だった。

 

取り分け係にとどまらず、人の使った食器まで、

残飯や残ったソースやタレがべっとりついている

人の使った食器まで、好んで片付けたい人がいるなんて!!

 

しかもその動機が、

オトコに気に入られたいとか、

優しい人に見られたい、とか

そんな面倒なもんじゃなかった。

 

やりたいからやっている。

ただそれだけ。

 

私の中の取り分け係の定義は、

取り分けることによって、

要は人のお世話を好んですることによって

「人からよく思われたい」という気持ちが満々なのだと思っていた。

でなければ、あんな面倒なことを自分からすすんでやるはずがないと。

 

それは裏を返せば、自分が人のお世話をするときには、

よく思われたい気持ちが満々だということでもある。

 

オトコに気に入られたかったのは私じゃないか!

人目を気にしていたのは私じゃないか!

 

 

過去最強の取り分け係は、

取り分けることをあまり好まない私のような人かいる、

なんてことはお構いなく、

自分のやりたいことをただ全うしているだけだった。

 

それはまるで私に、

「あなたは人の目を気にせずに、やりたいことができてるの?」

っていわれているかのようだった。

 

もしかしたら、OLの時に出会った取り分け係の彼女も、

オトコに気に入られたいとか、よく思われたい、

という思いはあったかもしれないけれど、

それよりもただやりたかっただけなのかもしれない。

そう思うと、彼女も自分の思いを全うしていただけなのかもしれない。

 

 

過去最強の取り分け係に出会ってから、

どんな取り分け係が登場しても、驚かなくなった。

 

彼女たちは、やりたいからやっている

私はやりたくないからやらない

やりたいことが違うだけなんだ、ってことがわかったから。

 

それどころか最近では、取り分けてもらえることが、

ありがたいなと思うようになった。

昔のように嫌いなものを我慢して食べることもなくなり、

嫌いなものは嫌いだからいらない、

と言えるようになったこともあるかもしれない。

 

あの頃に比べると、随分と私も、

人目を気にすることなくやりたいことができるようになったと思う。

 今でも取り分け係に興味ないことは変わらないけれど。