まるこ & あおい のホントのトコロ

さらっと読めて、うんうんあるある~なエッセイ書いてます。

私は高校生のとき、男性教諭の恋愛相談に乗っていました

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私は高校生の時、男の先生の恋愛相談に乗っていた。

今考えると、異様なことのようにも思えるのだが、その当時はそんなにおかしなことだとも思わず、むしろ、私のような小娘でいいんですか? 恐縮です。くらいにしか考えていなかった。

 

その年の夏休み、先生はペルーを旅行していた。詳しい旅程はわからないが、あの天空遺跡、マチュピチュを見に行ったようだった。

 

その頃先生は30代半ば、独身貴族の公務員で夏休みも沢山ある。実家に住んでいたから、自由になるお金も結構あったのではないかと思う。よく海外旅行に行き、私達はその話を聞かせてもらっていた。

私達というのは部活の仲間たちのことで、先生は部活の顧問だったのだ。先生が顧問になったとき、私たちはとても嬉しかった。なぜなら、それまでは七三分けが似合うカタブツの教師が顧問だったから。

先生は30代半ばで、高校生から見れば立派なオジサンだったが、ノリもよく、話ができる先生の一人だったのだ。

 

部活というのは放送部。地味な文化部ではあるが、コンテストで全国大会へ行ったりするなど、活躍もしていた。

放送室の隣には視聴覚室があったのだが、その視聴覚室には視聴覚準備室という部屋があり、その準備室が先生の部屋だった。実はこの準備室と放送室はドア一枚でつながっており、自由に行き来することが可能だった。そして、先生は顧問。そんなことから私達は先生と仲良くなっていったのだった。

 

「こんな手紙がきたのだけど、どう思う?」

 

それは、旅行先のペルーで知り合ったという、同じように旅行に来ていた日本人女性から来た手紙だということだった。そこには、あなたとガイコツになるまで一緒にいたい……というようなことが書いてあった。相手の女性もきっと妙齢だったのだろう、先生とその夏どんな関係になり、どんな会話をしたのかはわからないが、お互いに旅行後何度か手紙のやり取りをし、二人とも結婚を意識していたのではないかと思われる内容だった。だが、明らかにこの女性の方が焦っている……。先生はこの女性のあまりの押しの強さに、少し引いてしまっている様子だった。

 

「先生がノリ気じゃないのなら、ちゃんと断った方がいいんじゃないの?」

 

と、私はまっとうな答えを返した。しかし、恋愛経験もほとんどない女子高生が、よくこんな相談に乗ったものだと思う。

それからしばらく、先生は手紙のやり取りをしたり、女性と会ったりしていたが、結局は別れたようだった。

 

先生は女生徒にも比較的人気があり、バレンタインになると、女生徒手作りのケーキなどが準備室に運ばれて来ていた。しかし、それらは実は私達のお腹に入ってゆくのだった。

 

「このケーキ、6組の○○さんが作ったんだって! まさか、彼女も私達が食べてるとは思わないよね? 先生、あいまいな態度はよくないよ! このケーキも、彼女は先生が食べてくれると思ってるんだからね!」

 

しかし、先生もよくこんな「箸が転んでもおかしい17歳」の私達に恋愛相談をしたり、ケーキをくれたりしたものだと思う。女子高生と言えば、こんなことがあれば格好のネタとなり、あっという間に校内に広まってもおかしくないと言うのに。

けれども、先生の読みは正しかった。私達は部活内でそういう話をすることはあっても、決して外には漏らさなかったのだから。いや、あまりにも生々しすぎて漏らせなかったと言うべきか。私達は職員室内の人間関係や個人情報をあまりにも知りすぎていたから。

 

先生はあの頃、どんな気持ちで私達と話をしていたのだろうか?

少なくとも私達は、少し年上の友達のような感覚だったと思う。それぞれが進学のことを相談してみたりしたこともあったし、好きなミュージシャンのカセットテープを借りたこともあった。

 

私の高校に来る前に赴任していた学校の生徒に、先生のことを聞いたことがある。

それは、私の知っている先生ではなかった。いつも竹刀を持ち歩き、怒鳴り、恐怖で生徒を押さえつける……そんな先生だったようだ。あまりの違いに、その当時は先生にそのことについて聞くことは憚られてしまい、結局聞けずじまいだった。

 

先生も自分の教師像にいろいろと悩み、試行錯誤していたのだろう。他の職員との人間関係上の問題もあったかもしれない。そんな中、先生と私達は年齢も性別も違うのだが「仲間」だった。放送部の一員。仲間だからこそ、大人の生々しい話も、自分の恋愛の話もできたのではないだろうか。言葉にこそしなかったが、私達もそんな暗黙の了解があったからこそ、格好のネタも校内でバラすようなことはしなかったのではないかと思う。

 

普通に考えてみれば、気持ちが悪いことこの上ない。30半ばの男が女子高生に恋愛相談をするなんて。私も人の話として聞いていたら、確実に「気持ち悪い」と言ってしまうだろう。しかし、そこにはそんな気持ち悪さはみじんもなかった。感性鋭い女子高生だったのだから、恋愛経験があまりないとはいえ、何かしらの下心があればきっとわかったはずだ。しかし、私達の中にはさわやかな青春の1ページとして残っているだけだ。

 

今や私もあの時の先生の年齢を超えてしまった。先生はもう還暦を過ぎていることだろう。

中年女性と還暦過ぎの男性。世間的には不倫カップルだと思われてしまいそうな組み合わせだ。しかし、今再会したとしても「仲間」として話ができるのではないかという気がしている。

 

記事:渋沢 まるこ