まるこ & あおい のホントのトコロ

さらっと読めて、うんうんあるある~なエッセイ書いてます。

私の中のアラームが鳴るとき

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私の中には、ウォンウォンとパトカーのように鳴り、点滅するアラームが内蔵されている。

 

若かりし日のほとんどの記憶は「若気の至り」のようなものが多く、自慢できるようなことはあまりないのだが、あの時だけは危険を顧みず、よくやったものだと思う。

 

私が通っていた中学は、その町の中でも一番荒れていると言われた中学校だった。授業中に「過去の」先輩たちがバイクでやってきて、勢いよくエンジンをふかしながら学校の周りを回ることもよくあったし、たまに学内に侵入してくることもあった。トイレに入れば、目の焦点があっていない、いわゆる「不良」の子たちがよくたむろしていた。入ってしまってから、しまった……と思うのだが、用も足さずにそそくさと出ると「私たちが邪魔なの?」と言われかねないから、こわごわ用を足していた。そういうときのトイレは臭いのも嫌だった。汚物の匂いではなく、シンナー臭かったから。

あの当時、親からは「あんたは本当に姿勢が悪いわね」と言われていたのだけれど、内心そりゃあ姿勢も悪くなるよ……と思っていた。学校にいるときは、なるべく下を向いて歩いていたから。不良の先輩と下手に目なんか合ってしまったら、大変なことになってしまうのだ。

今となっては、それも思い込みだったかもしれないとも思うけれど。

 

ある時期、私のクラスは同じ学年の不良の女の子たちのたまり場と化していた。休み時間になると、クラスの一角には近寄りがたい空気が流れていた。でも、彼女たちは意外と楽しそうだったような気がする。考えてみれば、彼女たちも一女子中学生だったのだ。休み時間に仲間と集まって話をするのは楽しかったのだろう。けれども、そんな平和な時間は長くは続かなかった。

 

「ちょっと、あんた生意気なんだよ」

それは、明らかに難くせをつけていた。生意気だと言われている方を、仮にA子だとしよう。A子はクラスの中ではおとなしい部類の子だったし、いつも一緒にいる子も地味でとてもおとなしい子たちばかりだった。生意気のかけらもなかった。不良の彼女たちは、つまり、難くせをつけやすい、いじめやすい子をターゲットにしたという訳なのだった。

それから昼休みになると、私のクラスでは難くせをつけるいじめが始まった。クラスのみんなは、私も含めて眉間にしわを寄せてはいたけれど、全員が傍観者だった。クラス委員の男子が少したしなめたことはあったけれど、ちっとも効果はなかった。

そのうちに、このいじめはエスカレートしていった。おとなしいA子がたまりかねたのか、多少口答えしたのが気に入らないようだった。とうとう手が出てしまったのだ。A子の頬には、赤いしっかりとした手のひらの跡が残っていた。

それを見た私は、私の中で何だかもう耐えられないという気持ちがムクムクと湧いてきて、居ても立っても居られなくなり、一傍観者から脱することを決めたのだった。と言っても、多勢に無勢で立ち向かう勇気などない。私はその日の夕方、信頼のおける先生に一部始終を話したのだった。

 

残念ながら、私は正義感に燃えていたわけではない。正直言えば、私もいわゆるいじめのようなものに加担したことが全くないわけではなかった。そもそも、この件もついさっきまで一傍観者として加担していたのだ。私だって、面倒はごめんだ。いじめにだってあいたくはない。だけど。あの瞬間、私の中でアラームが鳴ったのだ。これ以上傍観し続けたら、きっと大変なことになる。彼女たちは一線を越えてしまった。手を出してしまった。これがエスカレートしたらどうなるのか。そんなことを瞬時に考えていたような気がする。それが正しい判断なのかどうかなんてわからないけれど。

そして、彼女たちに土下座をしろ! などと強要されながらも、必死に口答えをして1人で抵抗しているA子に感動したところがあったのかもしれない。あの場面で、1対数人で口答えができるなんて、よほど心が強くなくてはできないことなのではないだろうか。そもそも、A子はほぼ毎日繰り返され、エスカレートしていくいじめに耐え、学校を休んではいなかったのだ。

 

翌日の放課後、下駄箱に向かって行くと「彼女たち」が鉄パイプを持ってたむろしていた。瞬間、私は「これはヤバイ!」と思った。彼女たちは犯人捜しをしているに違いない。もしかしたら、もう既に私が犯人だとわかっているのかもしれない。しかし、ここまで来て踵を返したら、それこそ私が犯人ですと名乗りを上げることになってしまうではないか。私はその数秒間に覚悟を決めた。ボコボコにするならしろ! 私は何も悪いことはしていない! いや、実際はこんなにかっこよくはなかった。覚悟はしたけれど、内心ものすごくビクビクしていた。けれども、彼女たちの関門を通らなければ家には帰れない。1歩、2歩……どんどん関門に近づいていく。

 

「あのさぁ、チクったやつ知らない?」

 

とうとう来てしまった。私の予想通り、彼女たちは犯人捜しをしていた。彼女たちは、私が犯人だと知って言っているのか? それとも何も知らないのか? はたまた、私はグレーな容疑者なのか? 私には読めなかった。ここはイチかバチかだと思った私は、涼しい顔をして「うん、わからない」と答えた。このときほど、自分を女優だと思ったことはなかった。

 

「もしわかったら教えて」

「うん、わかった」

 

この短い会話のあと、私は無事に関門を通過したのだった。顔からは血の気が引いていた。

 

のちに友人に、あれ先生に言ったの私なのよね、と言ったらものすごく怒られた。あんたバカじゃないの、もし見つかったら大変なことになってたよ。そうなったら、私助けられないよ! 何やってんのよ!

 

私は一見正義の味方のようだが、A子のため、というよりも、自分があの状況に耐えられなかったのだと思う。これ以上見ていられない、いたたまれない。だから、どうにかしてください。そんな気持ちで先生に訴えに行ったような気がする。

だが、結果としてA子へのいじめは影をひそめ、私のクラスがたまり場になることもなくなった。そして、彼女たちが探していた犯人が捕まることもなかったのだった。

 

そういうわけで、これ以降、私は自分のアラーム作動を結構信頼することにしている。

 

 

記事:渋沢 まるこ