まるこ & あおい のホントのトコロ

さらっと読めて、うんうんあるある~なエッセイ書いてます。

とあるレジ係のおばさんにいつも苛立っていた理由

 

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「すみません、もう一枚袋ください」

「大きさは?」

「大で」

「はい、どうぞ」

私はこの会話を彼女と何度繰り返したことだろう。

 

家から歩いて3分のところにある大型スーパー、もうかれこれ10年以上、一応主婦だからほぼ毎日通っている。

 

それだけ通っていると、どこに何があるのかだいたい覚えるし、今日はこれがいつもより高いとか安いとかもわかるようになる。その上覚えなくてもいいのに、レジの人の顔まで覚えてしまった。おまけにあの人はレジが早いとか、この人は商品をかごに詰めるのが超うまいとか、この人はやたらしゃべってくるとか、そんなレジ係の特徴までわかるようになった。

 

その中で、この人のレジには絶対に並ばない、と決めているおばさんがいる。彼女はたぶん開店当初からいる超ベテランで、レジも早いし、詰めるのもうまいし、特に愛想が悪いわけでもない、ごく普通のおばさんである。

 

が、たった一つの難点が、私を彼女から遠ざけている。その理由が冒頭の会話。

彼女は、レジ袋をケチるのである。

 

このスーパーでは、商品を買うとレジ袋をくれる。そのレジ袋には大、中、小と3種類あって買い物の量に応じて大一枚とか中二枚とか、レジ係の判断で袋をくれるのだけれど、彼女はなぜかそのレジ袋をいつもケチるのである。

 

たとえばカゴいっぱい買い物して、これは大一枚でも入りきらないという時でも、中一枚とか、他の店員さんなら明らかに大二枚くれるでしょ、という時でも大一枚とか、とにかくケチる。

 

最初はそんなことは全く気づかずに、たまたま袋の量をミスったのかなと思い、もう一枚ください、と軽く言いに行っていたのだけれど、さすがにそれが数回続くとなんで? と疑問がわいてくる。

 

実は後から追加で袋をもらうことって、客の側からすると意外と苦痛なのだ。レジ係の背後から、レジに並んでいる人に気を遣いながら、「すみません、もう一枚袋ください」と言う時、「この人、ほんまは入るのに余分に袋もらおうとしてるんちゃうの?」というような疑いの目が、レジ係からも並んでいるお客さんからも向けられているような気になる。

 

いやいや、私だってそんなにたくさん袋が欲しいわけじゃない、気持ちよく商品を詰めて、気持ちよく持って帰れる袋があればいい、ただそれだけなんだ。そもそも詰め放題じゃあるまいし、なんでこんなに必死になって無理矢理詰め込まなあかんわけ? とだんだん苛立ちさえ覚えるようになった。

 

そんなわけで、私はそのおばさんのところには並ばないようにしていたのだけれど、ある日すいていると思ってうっかり並んだら、そのおばさんだったことがある。ミスった、と思ったけれど後の祭り。それでも前回並んだときから何ヶ月も経っているから、もしかして改心した? と思ったら大きな間違い、彼女は相変わらずケチなままだった。

 

どうやらそのことに気づいているのは私だけではなさそうで、夕方など混んでいる時にも、彼女のレジだけは人があまり並んでいなかったりするし、近所に住む友人にそのおばさんのことを伝えたら、私も知ってるよ、その人には並ばない、と言っていたから、やっぱりケチだと感じているのは私だけではなさそうだ。

 

レジ係の人が何人もいる中で、袋を渋るのは彼女だけだから、自分の渡す袋の量にはちょっと無理があるんだ、ということにいい加減気づいても良さそうなものだけれど、そんな気配は全くない。客の私が知っているぐらいだから、レジ仲間はきっとわかっているはず。

 

それでも断固として彼女がレジ袋をケチるのはなぜなんだろう?

その理由をちょっと考察してみた。

 

 

例えばこんな見方はどうだろう? 

そのおばさんが平均一日4時間レジに入っているとする。

一人あたりのレジの時間を3分とすると、1時間で20人、4時間で80人。

これを一週間続けると、560人。

一人につき、袋を1枚ケチっている、いや節約しているとすると、なんと一週間で560枚の節約になる。

これがもし一年だと80×365=29、200枚!!なんと、約3万枚!

私に対してはたった一枚の節約だけれど、塵も積もれば山となる。

 

このおばさんは、このスーパーにとってはものすごい経費削減に貢献している優秀なパートさんなのかもしれない。もしかしたら袋の消費量が少ないチャンピョンで表彰されているかもしれない。

 

いやそれとも、こんな見方もできる。レジ袋をケチったら、お客さんに嫌がられる、すると、自分のレジにはあまり人が来ないから忙しくならない。要は同じ時間内でいかに楽できるかを考えているという、スーパーにとっては人件費の無駄とも言える不良パートである、という可能性。

 

いや、ただ単に鈍感なだけでレジ袋のことなんか気にしていない、特に意図はないでしょう、という見方もある。

が、あのおばさんのきっちりかっちりしていそうな外見からしてそれはありえないと思う。

 

 

ああ、いったい何が目的なんだ?

袋をケチって客をイライラさせて、いったい何がしたいんだ?

 

 

と、ここまで考察してみて、わかったことがある。

おばさんがレジ袋をケチる理由、それはいくら考えてもわからない。なぜならこれは私の妄想でしかなく、あのおばさんの本当の気持ちなんて、本人に聞かないかぎりいくら考えてわかるはずがない。

 

そんなこと初めからわかっちゃいるのに、なぜ考えても仕方のないことを考えてしまうのか? それはそのおばさんのことが気になっているからで、その気になっている理由はというと、実は自分もあのおばさんに負けないぐらいケチだから。大雑把に見せているけれど、実は結構細かいのだ、私って。

 

人は自分がひた隠しに隠しているところをあからさまに見せられると腹が立つものである。私は彼女がレジ袋をケチるたびに、自分のケチな部分を見せられているような気になっていただけなのだ。

 

そう、彼女がケチる理由なんて実はどうでもよかったのだ。私は自分のケチな部分を見るのが嫌だっただけ。ああ痛い。

 

ただひとつだけ言えることは、今まで彼女はそのスタンスを変えなかった、そしてこれからも変えるつもりはなさそうだ、ということである。

 

ならば私も、彼女には絶対に並ばない、と決めるだけである。自分のケチを毎日目の当たりにするほどの勇気は、今の私にはまだないから。

というわけで、わざわざ混んでいるレジに今日もまた並ぶ。

いつの日か、彼女の前に行き、心の中で「仲間だね」とつぶやけるようになる日まで。

 

記事:あおい